心を込めて
感謝を込めて
愛情を込めて
私たちにできること
みんなが落ち着いた頃を見計らって、もう一度診療所へ連絡を入れた。
しばらくして、院長先生と看護師さんが来てくださった。
院長先生は3日連続。
有難いの一言につきた。
父の身体を診察し、脈や瞳孔を確認してから時計を確かめられ
「午前3時33分、ご臨終です」と静かに言われた。
私は一人「おおっ先生、語呂合わせてくれたんかな」などと
不謹慎なことを考えていた。
そこからは看護師さんとエンゼルケアの処置に入った。
「一緒にされますか?」と聞いてくださったので
「ぜひ、お願いします」と答えた。
タオルを数本、濡らして絞ったものをレンジでチンして温め
お顔、身体とみんなで拭いていった。
「パパちゃん、気持ちいいねぇ」と言いながら
おひげはそんなに伸びていなかったが、子どもたちにシェーバーで仕上げてもらった。
最後の数日はほとんど食べれていなかったので腸にも残っていないようだったが、
そこは看護師さんが肛門から排せつ処理をされ、キレイにしてくださった。
おむつはきれいなままで、余計せつなくなった。
『ごめんね、本当はずっといやだったよね』
真っ白な新しいパンツをはいた。
口の中も通常は洗浄するようだったが、そこはすでに長女がケアしてくれている。
「お着替えをしましょう」院長先生に言われ、
私は着せやすいものが良いかなと思い、浴衣を手渡した。
すると先生が「う―ん」と考え込まれ「これでいい?」と再確認された。
あれっ??これじゃいかんのかな(・_・;)
アワアワする私に先生はにっこり笑って、部屋に貼ってあるパパちゃんの写真を指差し、「この洋服とかは?」と聞かれた。
それはパパちゃんが釣りに行っていた時のものだった。
船の上で釣った魚を手に、満面の笑みのパパちゃん。
パパちゃんが釣りが好きだと話した、ほんのちょっとのたわいもない会話を
院長先生はちゃんと覚えていてくださったのだ。
急いでクローゼットからその時の洋服を出した。
青い、チェックのシャツ。
お出かけ着ではないけれど、そういつも、パパちゃんが着ていた服だ。
みんなでうんせ、うんせと袖を通しボタンをしめ
いつも履いていたズボンを身に着けた。
いつもと変わらないパパちゃんが、そこにいた
今にも起き出して「よし、行こう」と言い出しそうな
「あぁ、パパちゃんだねぇ」
「うん、じいちゃんらしい」
みんなボロボロ泣きながらも、温かい気持ちでいっぱいになった。
院長先生は、静かに、穏やかに笑っていた