癌と共に~フーテンのパパちゃん~

大好きな父が癌になりました。クジラを見に行く日を夢見て🌈

胃がんからの在宅医療~驚きと、悲しみと~

ほんの僅かな時間だったけれど

 

さようなら

さようなら

ありがとう

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葬儀社の人たちが戻っていき、しばらくしてから義実家の父母がやってきた。

 

険しい顔をしてはいってきて、そして無言。

 

父が横たわる姿を目にしても、涙一つこぼさない義父。

手を合わせはしたものの、無表情で、ただ見下ろしている。

その姿からは、なんの悲しみも感情そのものすら伝わってこなかった。

そして一応泣いてはいるが、一切私と目を合わさない義母。

 

昨夜、看取りを断ったのをよほど根に持っているのだろう。

 

それでも斎場の場所や家を出る時間は聞いてきた。

その際も、コロナのことがあるので

家族葬で内内に済ますので、親戚の方々はご無理しないでください、と伝えた。

 

恐らくわかっちゃいないが。

話はもっぱら義母。

義父は耳が悪く、でも補聴器を付けたがらないので話が伝わりにくい。

 

あれこれ聞くだけ聞くと、さっさと帰っていった。

 

ため息しか出てこない。

 

しばらくして、親戚の叔父夫婦がやってきた。

パパちゃんのこともいつも気がけてくれ、優しくしてくれていた人たち。

 

「知らんかった」と涙をぼろぼろこぼしながら

「お父さん、きつかったね」とパパちゃんに声をかけてくれた。

 

「こんなに悪いなんて知らなくて」という叔父夫婦に

癌の転移は本人の希望もあって知らせなかったこと、

また本当に突然の急変だったことを詫びた。

 

「しんどいけどね、お姉さんたちもおるからね」と私達にも励ましの言葉をかけてくれる。もうそれだけで充分、ありがたかった。

 

それからまたしばらくして近所に住む親せきの叔母様姉妹。

「いつもニコニコ挨拶してたのに、見ないなぁって思って・・・」

そんなに親しい訳でもないのに、また足も悪いのにわざわざ別れのご挨拶に来てくださった。

 

「斎場へはね、コロナもあるから遠慮させてもらうね」

と言って頂き、ご香典まで頂戴してしまった。

 

その時、パパちゃんの釣り仲間でもある近所のおじさんのことにふれ

「知らないんじゃなかろうか」と叔母さん同士で話していた。

(一応、遠い遠い親戚筋にあたります)

 

その言葉にハッとし、叔母さん姉妹が帰られた後、オジさんの家に行った。

 

すぐ近くに住むオジさんは、パパちゃんの町内で唯一の友達で釣り仲間。

色々複雑な家庭環境のようで、独り身で兄家族と暮らしている。

アウトロー的な人で、あまり格好などは気にしない。よくパジャマでウロチョロしているのを見かけるが、会うとニコッと挨拶してくれる。

また町内の色々な面倒ごとやお手伝いも、進んでされるいい人だ。

 

だが義父はとても気に入らないらしく、道であっても知らん顔。

自分より立場や職歴が上でないと認めない人だから。

 

そんなオジさんは、回覧板をうちに持ってくる時にパパちゃんと意気投合し

それから釣りに誘ってくれるようになった。

もう一人、町内でも釣り好きな別の人も交えて、よく3人で出かけていた。

 

近くに、海と川が合流する河川があり、そこで手長エビやものすごく大きな魚が釣れる。

時期や潮を見ながら、パパちゃんにも声をかけてくれていた。

 

誰も知らない土地に来て、唯一できた友達。

 

パパちゃんの楽しみだった。

 

町内清掃の時も、オジさん達がパパちゃんに声をかけてくれて、一緒に廻ってくれる。

歩きながら楽しそうに釣りの話をしながら。

 

嬉しかった。

 

でもそんな時でさえ、義父から横やりが入る。

釣りのお誘いでうちへ来ても、しょっちゅう庭に入り浸る義父がわざとさえぎり、話をさせないのだ。

そしてパパちゃんと話をさせず、追い返してしまう。

 

パパちゃんの落胆はひどかった。

 

もう嫌がらせでしかない。

しかも子供じみた、人間性を疑うような。

 

でもオジさん達も義父の性格を知っていて、あえて知らん顔をするようになった。

目の前でパパちゃんに構うと、わざと割って入ってくるのを知っているのだ。

 

でも義父の姿が見えなくなるとすぐにやってきて

手短に約束を取り付けにきてくれた。

 

一度『すみません、気を使って頂いて・・・』と頭を下げると

『いいよいいよ。あの人ほら、難しいからね。お父さん大変なのに頑張ってるよね』と

苦笑しながら言われていた。

 

町内の人も、ちょっとおかしいのは分かっているのだと初めて知った。

 

パパちゃんの体調が次第に悪くなり、釣りにもいけなくなった。

するとオジさんは釣ったエビや魚を料理して、持ってきてくれていた。

 

パジャマ姿で「ほい」とだけ言って(笑)

 

どんな高級そうなメロンや贈答品よりも

パパちゃんは一番嬉しそうだった

 

 

オジさんに手短に事情を伝えた。

相変わらずパジャマだったオジさんは黙って引っ込んでしまった。

 

それからしばらくしてやってきたオジサンは

(もちろんちゃんと着替えていた)

しばらくパパちゃんの顔を見つめた後

「きれいか顔ね」と泣き笑いのような顔で言った。

そしてパパちゃんの両頬を手でそおっとはさんで

「ありがと。またね」と震える小さな声で言ったあと、帰って行かれた。

 

 

よかったね、パパちゃん。

友達が会いに来てくれたよ。

 

オジさんの優しさが、とてつもなく嬉しかった